あやしい書評ブログ

摩訶不思議な世界へと誘う書物をご紹介。戻って来られなくなってもあしからず。

甲賀忍法帖〜飛び散る血と精液!情け無用のSF忍者バトル〜

 

甲賀忍法帖 山田風太郎忍法帖(1) (講談社文庫)

甲賀忍法帖 山田風太郎忍法帖(1) (講談社文庫)

 

次期将軍は忍者で決めよう!

時は江戸初期、慶長十九年。

大坂の陣を間近に控えた大御所・徳川家康は、一つの悩みを抱えていた。

豊臣に勝てるかーーではない。将軍・秀忠の二人の息子、いずれに家督を継がせるべきか、である。

兄の竹千代は長男ながら愚鈍、弟の国千代は聡明で家臣からの評判も良い。天下を治める徳川家、その命運を託すに足るのはどちらの孫か。家中が二つに割れる中、家康は驚愕の決断を下す。

互いに憎しみ合う伊賀忍者甲賀忍者、両者を戦わせて後継者を決めるというのだ!

伊賀が勝てば竹千代が、甲賀が勝てば国千代が次期将軍の座を得る。それぞれの陣営からは恐るべき能力を隠し持った忍者10人がエントリーした。かくして、史上最強の忍法使いによる、血で血を洗う戦いが幕を開けたのである!

ハッタリだらけの忍法合戦

忍者たちがチームを組み、各々の能力を駆使して戦う。後の少年マンガにも多大な影響を与えたこの「団体バトル形式」をいち早く確立したのが、山田風太郎忍法帖シリーズだ。1959年に刊行された「甲賀忍法帖」は、その記念すべき第一弾に当たる。

忍者が出てくるからといって、これを時代小説だと思って読んではいけない。言うなればこれは、戦国時代を舞台にしたSF小説である。その証拠に、登場する忍者は全員人間じゃない。

例えば伊賀の雨夜陣五郎は、体が塩にとけるナメクジ体質を持っている。なぜそんなことが可能なのか、作者はそのメカニズムを次のように説明する。

人体を組成する物質の六十三%は水であるから、彼が小児大の雨夜陣五郎に縮小するのもうなずける

また、全身の毛穴から血しぶきを噴出するくの一・朱絹に対しては「古来、人間の皮膚に生ずるウンドマーレーと呼ぶ怪出血現象がある」として、この能力がいかに理にかなっているかを力説する。

俺はこのウンドマーレー現象が気になって、いろいろな資料を調べてみたが、まったく出典が分からなかった。つまりはハッタリということだ。忍者ハッタリとはよく言ったものである。

エロスとタナトスが入り乱れる!

とにかく、こんな非人間的な忍者同士が戦うわけだから、まともな勝負になるわけがない。だまし討ちにあったり、セックス中に死んだりと、読んでる方が気の毒になるほどの死闘が繰り広げられる。

山田風太郎忍法帖シリーズをたくさん書いているが、今作は舞台設定や話のテンポ、忍者の能力や対決の組み合わせなど、どれを取っても完成度がピカイチ。完璧すぎるゆえにツッコミどころが少なくて不満を感じるぐらいだ。むしろ、これ以降の作品はツッコミどころしかない(性的な意味で)。

ちなみに俺が一番好きなのは甲賀の陽炎というくの一。性的興奮を覚えると毒息を吐くという、とてつもなくやっかいな女忍者だ(おまけに嫉妬深い)。エロスとタナトスが入り乱れる、シリーズを象徴するキャラクターだと思う。