あやしい書評ブログ

摩訶不思議な世界へと誘う書物をご紹介。戻って来られなくなってもあしからず。

チベットの死者の書(サイケデリック・バージョン)〜ドラッグをキメて解脱しようぜ!〜

 

チベットの死者の書―サイケデリック・バージョン

チベットの死者の書―サイケデリック・バージョン

  • 作者: ティモシーリアリー,リチャードアルパート,ラルフメツナー,Timothy Leary,Richard Alpert,Ralph Metzner,菅靖彦
  • 出版社/メーカー: 八幡書店
  • 発売日: 1994/04
  • メディア: 単行本
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LSDが悟りへの道を開く

人は死んだらどこへ行くのか。

人類が抱えるこの究極の謎に対し、世界各地の宗教はそれぞれに異なる答えを用意している。

チベット仏教では、人は死んでから次に生まれ変わるまで49日の時を要するとされる。この期間は中有と呼ばれる(なか卯ではない)。

この間、人間の魂は原初の光明を体験したり、憤怒の神々による襲撃を(なぜか)受けたりするという。その後、それぞれのカルマに従い、天上から地獄まで、六道の世界へと振り分けられていくのは日本の仏教でもおなじみのコース。

そんなチベット仏教の世界で、死者の枕元で唱えるお経として使われるのが「チベット死者の書」である。

これは心理学者のユングも愛読したといわれる書物だが、記されている内容は非常に難解。そりゃそうだ。読んですぐに分かっちゃったら、僧侶たちはあんなに一生懸命修行することはないだろう。

そんな僧侶たちの頑張りを尻目に、「ドラッグをキメて解脱しようぜ!」と高らかに言い切った男がいる。元ハーバード大学教授のティモシー・リアリーである。

サイケデリック研究の第一人者であるリアリーは、LSDやメスカリンを服用した際に起こる精神体験が、チベット死者の書に書かれた旅路の行程に似ていることを発見。チベット仏教の秘儀に科学的な解釈をぶちこみ、サイケデリックバージョンと称した薬物服用ハウツー本を書き上げた。

それは真理か、あるいは魔境か

死ぬこととは、自我を失うということ。

つまりは、凝り固まった精神の解放である。ドラッグをキメるとまず最初に強烈なエクスタシーに見舞われ、究極の真理を悟ることができるという。これをチベット死者の書では光明(クリアー・ライト)と呼ぶ。

それが失われると、次にさまざまな幻覚が現れる。

幻覚にもいくつかの種類があって、平静さを保つことができない者は苦痛や恐怖に苛まれてしまうという。この時、出現した邪悪なヴィジョンを恐れるのではなく、自分の一部として受け入れてあげることが大事だとリアリーは言う(ライオンとじゃれ合うムツゴロウさんを想像しよう)。

最後に現実世界へと自我を取り戻すわけだが、ここで聖人・英雄・人間・動物・餓鬼・地獄の中からゴールを選択できる。

どうせなら聖人や英雄として生まれ変わりたいものだ。それぞれの選択肢にはなぜか色がついているらしい。聖人は白、英雄は緑だから、それを選ぶと良いよと著者はそっとアドバイスを添える(ラッキーカラーじゃないんだから…)。

さて、以上が薬物による悟りの全容なわけだが、これ、ホントウに仏教のいうところの無我の境地なのだろうか?

一説によると禅の修行者は瞑想を行う際、その過程で脳内麻薬が大量に分泌され、強烈な幻覚を見ることがあるという。「魔境」というらしいが、修行の浅い僧侶はこれを悟りと勘違いする恐れがあるとして危険視されている。

ドラッグによって得られるものが「魔境」なのか、それとも「真理」なのかはよく分からない。

ちなみにリアリーは薬物所持で刑務所にぶち込まれているが、巧妙な手口で脱獄を成功させている。もうすでに現世から解脱しているような人物だ。牢屋から抜け出すことぐらい、朝飯前だったのだろう。