知覚の扉〜マゾヒストは神秘の夢を見るか?〜
- 作者: オルダスハクスリー,Aldous Huxley,河村錠一郎
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 1995/09
- メディア: 新書
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ドアーズの元ネタになった本。
知覚の扉澄みたれば、人の眼に
ものみなすべて永遠の実相を顕わさん
ペヨーテ!
サボテンの一種であるこの植物は、かつてアメリカ原住民たちにとって、神にも近しい存在であった。
ひとたび服用すれば、鮮やかな視覚体験と、霊的存在との一体感が得られる。その不可思議な効果から、ネイティブ・アメリカンの間では今も宗教儀式の際に使用されつづけているという。
そんなペヨーテの幻覚作用を、自分の体で感じてみようと実験台になったのがこの本の著者、オルダス・ハクスリー。ペヨーテの主成分であるメスカリンを水に溶かして飲み干してから一時間半後、彼は自らの「知覚の扉」を開くことに成功する。
その効果たるや絶大だった。何の変哲もない生け花。それが存在することが、まるで奇跡のように感じられるというのだ!
具体的には視覚が異様に研ぎすまされ、自らの心の世界と外界とを同時に体験できるようになるという。その後も、絵画に描かれた人物の服のシワだの、植物の葉っぱだのに異様に興奮する記述が延々と続く。
賛美歌やお経の驚くべき効果とは?
面白かったのは、なぜ宗教には歌や断食が付き物なのか?という疑問に対する著者なりの答え。
賛美歌を歌ったり、お経を唱え続けていると、呼吸によって体内の二酸化炭素の量が増える。すると、大脳の働きが衰え、幻覚作用を見るようになるというのだ。ヨガの呼吸法もこれと同じ原理が働いているという。
また、断食をすることでビタミンの摂取量が不足する。すると、これまた同じく大脳の機能が低下して幻覚=神的現象を見るのだという。
厳格な修行者は時折、自らに鞭を打って身を律したというが、これもまた、大脳に幻覚を見させるための巧妙なからくりであったと著者は看破する。
体を鞭で叩くことにより、脳内に興奮物質であるヒスタミンやアドレナリンが分泌される。さらに、傷口からはばい菌が入るため、これによって脳の機能が衰えるというのだ。
ここまで読んで、俺はなるほどと思った。これはもしやマゾヒズムの快感に通じる原理なのではなかろうか。
宗教的・超越的な経験は、必ず科学的な条件による裏付けがあるというのがこの本の主張であったと思う。この本が出版されたのは1954年。後のサイケデリック・ロックバンド「ドアーズ」は、この本のタイトルにちなんで命名されたのは有名な話だ。